第4章 お稽古と呼吸の技
「え……?十二鬼月って……確か……沢山人を喰べて……強くなった鬼のこと……ですよね?実弥さん、そうでしたよね?」
稽古を本格的に始めてから実弥から軽く鬼のことを教えてもらっていた。
鬼は変な術……血鬼術を使えない雑魚鬼から始まり、血鬼術を使う鬼、そして長い年数をかけて人を多く喰らい力を付け続けると、何かしらの方法で十二鬼月の下弦の鬼となる。
そして更に人を喰らい力を付けることにより、柱でさえ命を奪われることが珍しくないほどに強い上弦の鬼となる……と。
(元々鬼殺隊剣士なら十年やそこらで十二鬼月になっても可笑しかねェが……残酷だなァ。大好きだった父ちゃんが大量に人喰ってるとか……気が狂いそうになるわ……)
そう思ったとて杏寿郎が胸を痛めながら言った言葉が覆るわけでも、なかったことになるわけでもないのだ。
軽い慰めであしらっていい話しではない。
「あぁ。そうだ……お前の父ちゃんは……」
人を多く喰らった。だから十二鬼月になった。
など、目を見開き必死に涙を流すまいと堪えている少女に言えなかった。
過呼吸を起こしそうなほど呼吸の乱れた風音を抱き上げて足の間に座らせ、実弥は二人に視線を戻す。
「その鬼……どこにいた?倒せてねェんだろ?どこに逃げたかも分かってんのかァ?」
「俺の警備地区と不死川の警備地区のちょうど境くらいだ。鬼殺隊の隊服を着ていたのでな……遠くから声を掛けたのだが、振り向いた顔が……すぐに拘束、対処を試みようと日輪刀を抜いた瞬間にここから北東の方角に逃げ出したのだ。恐らくあの速さに追い付けるのは、宇髄か不死川くらいだろう」
風音の記憶によると風音の父親は風の呼吸の使い手との話だった。
風の呼吸の使い手全員が速いとは言いきれないが、雷の呼吸やその派生の音の呼吸、風の呼吸を扱う剣士は脚力が他の剣士より秀でていることが多い。
風音も風の呼吸を使いこなしたならば実弥に近い速さを出せるかもしれないけれど、確証はなく…… 風音が一人で父親だった鬼を追い詰め頸を斬るのは難しくなってしまった。
しかも十二鬼月討伐は柱になるための条件の一つに挙がっている。
まだ剣士にすらなっていない風音の適う相手ではないのだ。