第4章 お稽古と呼吸の技
実弥が踏み入れた台所は湯呑みの破片が飛び散っていたり水が溢れていたり……いつもとは違い騒然としていた。
「何やってんだァ?おい、危ねェから裸足で動き回んなァ。こっち来い」
「実弥さん、ごめんなさい。お客様用の湯呑みを一つ割っちゃって……あと、破片が回りに飛び散って動けません」
シュンと項垂れる風音に苦笑いを零し、その場から動けない少女の脇に手を差し入れて抱え上げてやる。
「湯呑みくれぇで落ち込むなァ。別に沸かし直さなくても冷蔵器ん中に茶残ってんだろ?アイツらが帰ってから片しゃいい。取ってきてやっからここで待ってろ……動くんじゃねェぞ」
動きたくても今の自分が動いてしまえば更に事態を悪化させてしまう恐れしかないので、風音は小さく頷いて台の上に置いてあったお茶請けと湯呑みを四つ盆の上に乗せながら実弥の帰りを待った。
そうして冷やしておいた茶の入った小さな薬缶を手にした実弥が戻ってくると、手元も足元も頼りない自分が運ぶのは危険だと判断して盆の運搬を願った。
「不甲斐ない弟子ですみません。初めてした口付けが……まさか柱の方に。……あ、でも考えようによっては忘れられない初口付けになると思えば良かったのかも?」
なんだか饒舌になっている風音の手を掴み体を引き寄せて胸元へ誘うと、引き寄せた手を離して背をポンポンと叩いてやる。
「悪かったなァ、何か無性に見せつけたくなっちまったんだ。それにアイツらは接吻してるとこ見てねェよ」
「それは……恥ずかしかったけど凄く嬉しい!フフッ、愛情表情ってことですね。ありがとうございます、もう大丈夫です」
胸元から上げられた顔からは赤さは引いており、ただただ嬉しいのだと見ただけで分かる笑顔を覗かせていた。
それに小さく息を零し背を押して居間へ促そうとしたが、何か思い出したようで動きを止めた。
「さっきの話の続きだが、お前の血は鬼にとって毒の性質があるらしい。胡蝶によると雑魚鬼くれェなら顔に擦り付けるだけでおっちんじまうくらい強力ななァ。まぁ人には無害つってたから気にすんなァ。あと……俺が言いたいことは分かってんなァ?」
「は、はい!血を軟膏に混ぜて使おうなんて考えません!」
やろうとしてたのだと自ら暴露した風音は、実弥から頭を軽くポコと叩かれたらしい。