第4章 お稽古と呼吸の技
「いっ!らっしゃいませ!あの……すみません!お茶を……お茶入れてきます!お茶請け……お煎餅、お煎餅が」
顔を真っ赤にした風音はフラフラと立ち上がり、どこかにぶつかるのではと心配になるほどに覚束無い足で台所へと向かって行った。
それを笑いながら見送ったあと、呆れた表情で天元と杏寿郎へ向き直る。
「テメェら……なんでこんな時間にここにいやがる。しかも勝手に俺ん家入ってんじゃねェよ」
「いやいや、それよりお前らいつの間にそんな関係なってたんだよ?しかも見せ付けるように接吻なんかしやがって!」
質問に対しての答えは返って来ず、全く関係のない質問が返ってきた。
杏寿郎はともかく好奇心満々の表情で縁側から凄い勢いで居間へ上がり込んできては実弥に詰め寄る。
「一々テメェに報告する義務なんてねェだろ。どうせ煉獄に目ェ隠されてたんだ、いつどこでどんだけ俺がアイツに接吻しようが見られてねェなら……てか近ぇわ!離れろやァ!」
「それより不死川!あの子を放っておいて構わないのか?火を扱うならば覚束無い足元だと危険だと思うぞ?」
ぎゃあぎゃあと掴み合う二人の間に割り込んだ杏寿郎は、風音がふらふらと向かった台所のある方向を心配げに目を細めて見ているが、実弥は大丈夫だと言うように首を左右に振った。
「アイツは抜けてるがしょうもないヘマしねぇ……」
『あっついー!あぁ……お湯沸いちゃった!あ……でも急須にお茶っ葉……わわっ!』
ガシャン……
ヘマをしないはずの風音は台所で一人混乱しては火傷をし、更には急須か湯呑みまで割ってしまっている。
『……』
「マジかよ……何の用で来たのか知らねェが本当に用があんならここで待ってろォ。様子見てくっから」
いつもならヘマをしない風音の行動に首を傾げながら台所へと歩を進める実弥の後ろ姿を、柱二人は顔を笑顔で見合わせて見送り大人しく居間に座り実弥と風音の帰りを待つことにした。
「不死川は置いといて……嬢ちゃんの初心さ何かいいねぇ!からかいたくなっちまう!」
「ふむ、可愛らしいがあまり構いすぎると不死川に怒られるぞ!」
……やはり大人しく待つことは出来ないようである。