第4章 お稽古と呼吸の技
「ったく……俺の前でも無防備過ぎる姿晒してんじゃねェよ。そんなに俺に襲われてぇのかァ?」
襲われるが何を意味しているのか分からないが、背中に広がる実弥の体温が高くなったので、風音は慌てて乱れた浴衣を整えてから実弥に向き直った。
「あの……襲う襲わないはちょっとよく分からないですけど……実弥さんと口付けしたいとは思います」
実弥を見上げる風音の瞳はいつも通り少し潤んでキラキラと宝石のような輝きを放ち、頬は薄らと桃色に染まっている。
相対的な色に染まる風音の顔に実弥の体温は上がり続け、思考能力を曖昧にしていった。
「あんま煽んなよ」
桃色に染まった頬に手をあてがうと、肩より少し上で切りそろえられた金の髪が体の揺れに合わせてふわりと揺れる。
綺麗だった黒い長い髪は少し伸びるごとに切り落とし、金の髪が肩に着きそうになったある日の朝、部屋から居間へ出てきたら黒髪の部分がバッサリなくなっていたので、実弥が驚き肩をビクつかせたものだ。
そんなこともあったと熱に浮かされた頭で考えながら、緊張で一文字に引き結ばれた小さな唇に自分の唇をそっと重ね合わせた。
(あぁ……やべェ。頭の螺ぶっ飛んじまいそうだ)
「ぉい!煉獄ふざけんなよ!いいとこで俺の目ぇ隠してんじゃねぇよ!見えねぇだろうが!」
「人のこうした行為を好奇心で見てはいけない!安心しろ!俺も目を瞑ってるので何も見えていないからな!」
まさか恋仲となって初めてした口付けを他人に見られるなど誰が予想出来ただろうか。
コソコソ話しているつもりかもしれないが、声の主の一人は隠れるつもりがあるのかと疑問が湧くほどに声がでかい。
もちろん鬼殺隊の柱二人の声を認識した風音は顔を真っ赤にして実弥から離れようとしたので、実弥は後頭部を手で押さえて逃げ道を塞いだ。
「んーーーっ!!」
目をグルグルまわし実弥の胸元をポコポコと叩く姿が面白くもう少し続けてやろうと思ったが、失神しては少し可哀想かもしれないと思い直しようやく真っ赤に染まった風音を解放した。
「さ、実弥さん?!ど、ど、どうして離してくれなかったんですか?!杏寿郎さんと天元さんが……目の前に……」
実弥に向けていた視線を恐る恐る声のした縁側へ向けると……ニヤニヤ笑う天元と溌剌とした笑顔の杏寿郎が座り込んでいた。