第4章 お稽古と呼吸の技
「実弥さん!見てください!ついに脚が真っ直ぐに開くようになったんです!ほら!」
道場内での稽古を終えて居間での寛ぎの時間。
風音にとって幸せな時間を過ごした次の日から、驚くほどに厳しさの増した稽古が開始された。
特に怪我が完治してからが特に厳しく、木刀を握って素振りや打ち合いを始めた一週間は手の平の豆が出来ては潰れを繰り返し、自分の手から出ている血で木刀が滑り、振り下ろした勢いそのままに地面へ投げ出されたり宙を舞って実弥が目を点にすることもあった。
そんな厳しく痛い日々を乗り越えたある日、実弥が手拭いで汗を拭い水分を取っていると、事もあろうか風呂上がりの浴衣姿のまま風音は脚を全開に広げて柔らかくなったことを誇らしげに示しだした。
「ブフッ!ゲホッ……お前、女としてその姿で脚開けんのどうかと俺は思うがなァ……あ"ぁ"……もう分かった。分かったから脚閉じねェか!」
と言われても脚を開けて畳に上体をペタンと貼り付けているので、動こうにも動けない。
上体を上げれば実弥の言う、どうかと思う姿を晒してしまうことになる。
「すみません、実弥さん。後ろ向いててもらっていいですか?指摘されると気になって起き上がれないです」
「そうかよ……そんならそのまま俺の話聞いてろ」
何とこの体勢のまま話を始めてしまうらしい。
体の柔らかくなった風音にとって今の体勢は苦しいものでなくとも、例えようのない羞恥に見舞われしょんぼりである。
そんな風音を笑って一瞥すると、実弥は本当に後ろを向くことなく話し出した。
「明日から呼吸の技を教えていく。本格的に鬼と対峙することを想定した稽古になるわけだが……お前、自分の血の特性知ってっかァ?」
まさかの質問まで繰り出された。
体勢が体勢なだけにいたたまれない気持ちになりながら、質問されれば答える他道のない風音は畳に張り付いたまま答えた。
「ちゃんと理解してないけれど、鬼にとって忌むべきものだとは何となく理解してます。実弥さんは……いえ、その前にやっぱり普通に座らせて下さい。緊張感が何となく……あれなので」
確かに畳に張り付いてる姿は緊張感は皆無なので、実弥は溜め息をついて風音の背後に回り体を持ち上げてやり足の間に座らせた。