第4章 お稽古と呼吸の技
「正直、あの山でお前が鬼に襲われるまで、俺はあんまピンと来てなかった。伊黒に風音のことどう思ってんのか聞かれたが、師弟関係……それ以上でもそれ以下でもねェって答えたくらいでなァ」
それは何となく風音も感じ取っていた。
でも……師弟関係としての親愛でも好いてくれているならばそれだけで嬉しかったし、自分の感情もふわふわとしていて曖昧な部分があるので気にしていなかった。
いつか実弥が誰かを好きになって側にいなくなっても、一人の人として好いてくれているなら満足だった。
実弥がどんな言葉を続けようとしてるか分からず首を傾げると、穏やかな笑みを向けて額を合わせてくれた。
「けどなァ、弱ェはずのお前が鬼と闘って……子供とテメェの命を繋ぎ止めてた姿見て……あれだ……嬉しかった」
間近にある実弥の顔は真っ赤に染っており、しょぼくれていたはずの風音の気持ちが浮上して思わず笑みが零れる。
それを目にした実弥は顎に当てていた指を外し、もう一度背に腕を回して苦しくない程度の力で抱き寄せた。
「お前が愛しい」
再び実弥の声が耳を刺激し、今度は風音の顔が真っ赤に染まり尋常ではない速度で全身の体温が上がっていく。
「ハハッ!自分が言う時は恥ずかしげもなく言うくせに、俺に言われっと照れんのかよォ。意外とからかいがいがありそうじゃねェかァ」
可笑しそうに笑う実弥の声が耳と胸元から風音に響き、体温を下げたくても心臓が飛び出しそうなほど強く早く打っているので、それは叶いそうにないと諦め、胸元から顔をピョコと出して実弥の肩に預けた。
「恥ずかしいし照れるけど……嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします」
「あぁ。俺はなァ、近しい奴ほど危険から身を引いて幸せに暮らしてほしいって思ってんだ。お前の場合、父ちゃんのこともあるから鬼殺隊入んなって言えねェ……だからせめて、俺より先に逝くんじゃねェぞ。師範として、お前に惚れた男としての言葉だァ。絶対に守れ」
「フフッ、はい!私は死なないし実弥さんも死なせません!一緒におじいちゃん、おばあちゃんになるまで生きましょう」
実弥の言葉を了承したことにより次の日からの稽古は厳しさを増し、筋肉痛がどうとか言う暇は風音からなくなった。