第4章 お稽古と呼吸の技
杏寿郎と約束した通り体を休めるためにベッドに潜り込むと、元気になったと言えど万全ではなかったようですぐに眠りに落ちていった。
しかも目を覚ましたのは既に空に日が昇っている朝で、心から杏寿郎の言う通りにしていてよかったとこっそり心の中で思ったとか。
それと言うのも自分が休んでいたベッドの傍らに、任務帰りと思われる実弥が腰を下ろし船を漕いでいたからだ。
(任務帰りでお疲れなはずなのに……起こしちゃダメだし、お手紙置いて胡蝶さんに挨拶しに行こかな。そう言えば誰が着替えさせてくれたんだろ?)
実弥が起きたらすぐに出られるように……そう思って実弥が持って来てくれた荷物から着物一式を取りだし、誰かが着せてくれた寝巻きを脱ごうと苦手な釦に手を掛けた。
「目ェ覚ましたと思えばテメェ、何してやがる。俺がいるってェのにそれ丸々脱いで着替えようだなんて考えてねェよなァ?」
「……あ、いえ。えっと……実弥さん寝てらっしゃったので大丈夫かなぁ……なんて」
少し懐かしく感じる頭を鷲掴みにされる痛みと、声音だけで般若の形相となっていると想像出来る言葉が背後から掛けられた。
釦から手を離したところでようやく頭から痛みがなくなり、恐る恐る振り返ると……やはり般若の形相と化しながら口元に笑みをにわかにたたえる実弥の姿がお目見えである。
それからしばらく実弥から叱られた風音はしょんぼりしながら笑いを堪えるしのぶの診断を受け、薬を飲み傷薬をきちんと塗るならば帰って良しとのお許しが出たので、久方ぶりとなる実弥の屋敷へ帰還を果たしたのだが……
「実弥さん……怒ってますか?」
帰る道すがらも帰ってからも実弥の顔は険しく、名前を呼んでも答えてくれない。
現在も居間に並んで座っているのに実弥は向こうを向いて風音と目すら合わしてくれず、醸し出す雰囲気もピリピリと肌を刺すような険しいものだ。
「ごめんなさい……お茶……入れてきます」
立ち上がりとぼとぼと台所へ向かう風音をチラと見遣り、実弥は頭を掻きむしった。
「クソがァ……俺に対して警戒心がねェのか男として見てねェのか分かんねェんだよ!」
胸の内の苛立ちは先ほどの風音の悲しい表情を思い出してチクリと痛み後悔に変わる。