第5章 遮二無二〜伏黒恵〜
「どうぞ。」
「ありがと。」
部屋に上げてコーヒーを淹れる。
さっき抱きしめた時のみやびの感触がまだ俺の体に残ってる。
女の感触は一応知ってはいる。
けれど、みやびは俺が知ってるそれとは全然違っていて。
ちっこくて、柔らかくて、儚くて、力を入れたら壊れてしまいそうだった。
とにかくみやびの全てが狂おしいほどに愛しくて ……
腹に当たった胸の柔らかさときたらもう……
ソファに並んで座り、コーヒーを飲む。
「本当、最低なヤツだな……殴るわ女作るわ。」
「あの人、実は私より全然格下なの。だから殴られたってあんま痛くないんだ。体質的にアザが残りやすいだけで。でも……今日のはちょっと、ね。知ってる人だったし。」
「誰?」
「山田。」
「そんなやついたっけ?」
「最近入ってきた。」
「ああ、あれか。」
先月入ってきた女の補助監督がいる。
男の前、特に五条先生の前だと態度が変わるって釘崎が言ってたな。
「綺麗な人だよね。スタイルもいいし、私とは全然違う。」
下を向くみやび。
悲しそうに言うなよ。
「みやびの方が100倍……いや、100万倍可愛い。」
言ってしまった。
「えっ?……ヤダ……私なんか、冗談やめてよ。もう、恵ったら。」
「冗談なんかじゃない。みやびの方が全然いい。」
「恵だけだよ、そんな事言ってくれるの。」
そう言って俺を見るみやび。
もう無理だ。
止められない。
ゆっくりと顔を近づける。
顔を斜めにして。
そして柔らかな唇にそっと口付けた。
軽く。
触れるだけのキス。
柔らかい唇。
もっと欲しくなる。
軽く触れただけですぐに離れる。
ゆっくりと離れようとして驚いた。
みやびが今にも泣き出しそうな顔で俺を見つめてるから。