第5章 遮二無二〜伏黒恵〜
「えっ?そうなの?俺はてっきりみやびを食っちゃったのかと……」
「食ってません!」
「そうか……グッジョブ!」
そう言って親指を立てるパンダ先輩。
な、何なんだこれは。
みやびの元へ戻ると後ろからパンダ先輩と棘先輩が頑張れと言った。
「何を頑張るの?」
みやびに聞かれた。
「俺、早く1級になりたいんで。」
「恵も貪欲に求めることがあるんだね。」
「俺も欲しいものはあります。」
欲しいもの……
それは……
あっという間にみやびの部屋の前に来てしまった。
「その、もし何かあったらいつでもいいんで連絡下さい。俺、料理するの嫌いじゃないし……」
何もなくたって来て欲しい。
「うん、本当に辛くなったら恵に言うね。今日は楽しかった、ありがと。おやすみ、恵。」
可愛い笑顔。
ますます好きになりそうだ。
部屋に入り、ドアが閉まる。
すると、中でドンッという音がした。
しばらくドアの前で耳を澄ます。
見えなくたって気配でわかる。
泣いてるんだ。
ノックしようかどうしようか逡巡する。
すると、靴を脱ぐ音が聞こえたのでその場を立ち去った。
部屋に戻り、熱いシャワーを浴びながら想う。
どうしよう。
スッゲェ好き。
どんどん高まってきてる。
ヤバいな。
向こうには婚約者がいるんだ。
暴行されても受け入れるぐらい愛してるんだ。
俺が入り込む余地なんて恐らくないだろう。
報われない。
それでも構わない。
彼女のために何かしてやりたい。
陰ながらでもいい、彼女を守りたい。
あの男の暴力から彼女を救ってやりたい。
気づくと涙が流れていた。
生まれて初めて他人を想って泣いた。