第5章 遮二無二〜伏黒恵〜
泣いているみやびの肩を抱きよせた。
小さくて、柔らかくて、暖かくて。
こんな体で俺よりも強いなんて。
初めて会った時はただ小さな人だなあと思っただけだった。
だけど高専に入学して日々、みやびを側で見て過ごす内にいつしか好きになっていた。
「こういう事は彼女にだけしてあげて。」
俺も人並みに彼女はいた。
中学の時の先輩。
だけど、みやびを好きな気持ちが押さえられなくなってしまい別れた。
「そんなの……いません。」
「恵はかっこいいよ。自覚ないの?」
自覚?
「背が高くて手足長くてスタイル良くて顔もイケメンだし、強いし優しいし最高にカッコいいよ。」
好きな人にそんな事言われたら、俺はもう……
体温が上がっていくのがわかる。
顔が火照る。
「照れちゃって可愛いね。」
「可愛いのは俺じゃなくてあなたです。」
そう言ったら全力で否定された。
自覚がないのはあんただろ?
「とても小さくて可愛い女の子で……手とかもすごく小さくて守ってやりたくなる……」
思わず好きだって言いそうになった。
「尊敬してます!」
慌てて付け足した。
本当はこんな事が言いたかったんじゃない。
「私も恵のこと、尊敬してるよ。」
「ありがとう……ございます。」
いいんだ、これで。
そのあと、部屋まで送ろうとしたらパンダ先輩たちにバッタリ会った。
「恵、ちょっといいか?」
パンダ先輩に呼ばれてみやびから離れる。
「何です?」
小声で聞く。
「恵……俺は今、猛烈に嬉しい!」
「な、何故です?」
「お前はやる男だと思っていたんだ。」
「だから、何を?」
「みやびのこと、大事にしてやってくれ。」
「はあ?俺はただ、飯作りすぎたから食べてもらっただけですけど。」