第5章 遮二無二〜伏黒恵〜
「お待たせしました。行きましょうか。」
「うんっ。」
恵がいると私は明るくなれる。
「……で、では失礼します。」
何だか慌てた様子で棘たちに挨拶した恵。
「頑張れよ!」
「しゃけ!」
2人が恵を応援してる。
「何を頑張るの?」
気になって聞いてみた。
「俺、早く1級になりたいんで。その応援だと思います。」
「そっか、恵も貪欲に求めることがあるんだね。」
「はい……俺も欲しいものはあります。」
「えっと……恵が死んじゃったらみんな悲しむよ。だから死なないでね。」
私、何言ってんだろ?
「死にませんよ。」
「頑張れ恵!」
「ありがとうございます。」
あっという間に私の部屋の前。
「今日はありがとね、恵。ご飯美味しかったよ。」
「その、もし何かあったらいつでもいいんで連絡下さい。俺、料理するの嫌いじゃないし……」
恵が優しすぎてまた泣きそうになるよ。
「うん、本当に辛くなったら恵に言うね。今日は楽しかった、ありがと。おやすみ、恵。」
「おやすみなさい、みやびさん。」
素敵な笑顔。
ますます好きになっちゃうよ。
部屋に入りドアを閉め、玄関にへたり込む。
ドア一枚隔てた向こう側に恵の気配を感じながら、声を殺して泣く。
私はバカだ。
好きになったってどうにもならないのに。
恵だって迷惑に決まってる。
何、期待しちゃってんだろ。
立ち上がり、靴を脱ぐと恵の靴音が聞こえた。
ドアに耳を当て、靴音を確かめる。
行っちゃった。
「ハァ、シャワー浴びよ。」
熱いシャワーを浴びながら自分に言い聞かせる。
崩れちゃだめ。
耐えろ。
その内ハルくんも落ち着いてくれるから。
ううん、そんな事より言い聞かせなきゃいけない事が他にある。
恵は先輩の私を心配してくれてるだけ。
勘違いするな。
これ以上恵を好きになるな。