第5章 遮二無二〜伏黒恵〜
ダメだ。
何、期待してんの?
下を向いたまま、さっさと食器をシンクへ運んだ。
「食後のコーヒー飲みたいな。」
照れ隠しに言ってみた。
お皿を洗い終わり、ソファでコーヒーを飲む。
隣には恵がいる。
「アザの事、誰にも言わないで。」
これ以上誰にも知られたくない。
「どうして庇うんですか!」
強い口調の恵。
少し驚いた。
私はただ、波風立てず穏やかに生きていきたいだけなのに。
ハルくんと別れる道なんてない。
だったらせめて……
「そういう運命だから逆らえないの。だからせめて平穏に……」
悲しくなった。
たかだか17歳で人生諦めるなんて。
涙が溢れる。
その時、恵に抱き寄せられた。
「め、ぐみ……」
「泣くなら肩貸してあげます。」
「……っ、あり……がと……っ、めぐ……み……」
恵の肩に顔を寄せて泣く。
私の肩に回された手があったかくて心地よくて。
思わず恵の腿の上に手を置いてしまった。
優しいな。
何で私なんかにこんなに優しくしてくれるんだろ?
荒んだ日常で自分を保てているのはあなたのおかげ。
あなたがいてくれるから私は生きていける。
涙が止まらない。
すると、私の頭を撫でてくれた。
恵に触れられたところが熱を帯びる。
こんな事されたらますます好きになっちゃうじゃん。
「ありがと、恵。」
「いいんです。俺で良かったらいつでも頼って下さい。」
そんな事出来るわけないじゃん。
ゆっくり、恵から離れる。
「優しいね。だけどダメだよ。こういう事は彼女にだけしてあげて。」
本当にそう思う。
「そんなの……いません。」
あら、そっぽ向いちゃって。
可愛いとこもあるんだね。
「恵はカッコいいからモテるはずだよ。」
「そんな……俺なんて……」
「自覚ないの?そんなにカッコいいのに。」