第5章 遮二無二〜伏黒恵〜
大きな手が勢いよく振り下ろされる。
わざと避けなかった。
大きな音と共に私の体は壁に当たった。
「お前はもう俺の物だよ。」
倒れた私を起こしながらハルくんが言った。
私は目に涙を一杯溜めて彼を見上げた。
「そそる顔しやがって。」
その刹那、私の体は乱暴に床に落とされた。
目を閉じるとブラウスが引きちぎられる音が聞こえる。
飛んだボタンが床に転がる音も。
有無を言わさず冷たい床の上に組み敷かれ、強引にされる。
もう既に何度も体を重ねているけれど、こんなのは初めてだった。
硬く閉じた目から涙が流れ落ちる。
その時、脳裏には別の男の顔が浮かんだ。
「中村先輩。」
「私も真希みたいに下の名前で呼んで。」
「は、はい……みやびさん……」
「ありがと、恵。」
彼は後輩の伏黒恵。
中学生で既に2級術師になっていた天才。
彼は私よりもずっと早く高専に出入りしていた。
私が入学したての頃、校内で迷っていると恵が助けてくれた。
優しい子なの。
「ハアッ、ハアッ、みやび、みやび……」
ハルくんに無理矢理されている最中、恵を想った。
背が高くてイケメンで強くて優しくて。
こんなかっこいい人の彼女はやっぱり目がぱっちりしてて、美人で八頭身で背が高くてスラッとしてて、手足が長い女の子なんだろうな。
そしてきっと彼より年下に決まってる。
私は背も低いし八頭身でもない。
美人でもなければ手足も短い。
おまけに恵より年上。
私、何考えてんだろう。
嫌な事を忘れるための妄想で悲しくなってどうすんだ。
どっちの涙だかわからなくなった。
これ以来、ハルくんはしょっちゅう理由をつけては手を挙げるようになった。