第5章 遮二無二〜伏黒恵〜
笑顔で俺を見るみやび。
時が止まる。
やばっ……
めちゃくちゃ可愛い……
そんな顔で見つめられたらキスしたくなるだろ。
「お皿洗うね。」
その言葉に我に返った。
「いいよ、俺がやります。」
慌ててテーブルのお皿を取ろうとした時、みやびの指と俺の指が触れた。
綺麗な指。
高鳴る胸。
俺の時間は再び止まってしまう。
「食後のコーヒー飲みたいな。」
いつの間にかお皿をシンクに運んだみやびが言った。
俺、どのくらい固まってたんだろう。
「じゃあ、コーヒーいれます。」
みやびがお皿を洗ってくれる間にコーヒーを入れてリビングのテーブルに置いた。
ソファに並んで座り、コーヒーを飲む。
味なんてまったくわかんねえ。
今の俺に取ってはただの苦い湯でしかない。
「あのね、恵。お願いがあるの。」
唐突にみやびが言った。
「何ですか?」
「アザの事、誰にも言わないで。」
「どうして庇うんですか!」
少し腹が立った。
「平穏に生きていきたいの。」
「黙ってたところで平穏じゃないでしょう。」
「そういう運命だから逆らえないの。だからせめて平穏に……」
肩を震わせるみやび。
泣いている……
この人のために何かしたい。
だが、16歳の俺に出来る事なんてたかが知れてる。
「め、ぐみ……」
みやびの肩に腕を回して自分の方へと引き寄せた。
「泣くなら肩貸してあげます。」
「……っ、あり……がと……っ、めぐ……み……」
俺の肩に顔を寄せて咽び泣くみやび。
こんな時に不謹慎だけど……可愛すぎだろ。
俺の太ももに置かれたみやびの白くて小さな手。
手が置かれた場所が熱を持ち、その熱が身体中に伝わる感覚。
肩を抱くだけじゃ足りない。
本当はもっと……
左手の拳をギュッと握り、衝動を抑えた。