第3章 舌先三寸〜日下部篤也〜
「お、お前!何やってんだ?」
慌てて女の方に駆け寄り小声で話す。
「もしかしてあの子が例のみやびちゃん?随分可愛らしいわね。」
「お前には関係ねえ。それより何だよ、忘れ物って。」
「ピアス忘れちゃったの……」
「今はマズイ、また後で……」
「あの、私もう帰りますからお気になさらず。」
そう言って帰ろうとするみやび。
「あ、みやび、これは……その、違うんだ!」
俺、何言ってんだろ……
「ピアスならキッチンカウンターにありましたよ。」
みやびが女に向かって言った。
「あら、ありがと。」
「では、ごきげんよう。」
ごきげんよう?
コイツ、何言ってんだ?
「おい!みやび、待て!」
俺の声を無視して歩き出すみやび。
俺はその背中を見送る事しか出来なかった。
「追いかけなくていいの?」
「うるさい。」
部屋に戻るとみやびが言った通りの場所にピアスがあった。
「何なんだよ、ごきげんようって。」
さっきのみやびの態度が気になって呟いた。、
「怒ってるか悲しんでるか、もしかしたら両方ともね。」
「そうなのか?」
「あっくん鈍感?」
「えっ?」
「鈍感だね。女心が全然わかってない。」
「どういう意味だよ?」
「あの子、可愛い子だね。私はもうここには来ないから。」
「はあ?何でそうなるんだよ。」
「あの子を大切にしてあげて。さよなら。」
女は一方的に別れを告げ、出て行った。
俺が鈍感?
どういう意味だ?
大切にしてあげて?
1人残された部屋で悶々としながらみやびの事を想った。
その夜は一睡もできなかった。
今日は日曜日。
シャワーを浴び、朝食を食べてから出かけた。
みやびが好きだと言っていた和菓子屋の苺大福を買い、電話をかけた。