第3章 舌先三寸〜日下部篤也〜
「こら、みやび!悟と呼べって言っただろ?」
どこからともなく現れた五条。
「ごめんね、悟。」
五条を見るみやびの瞳がキラキラしててとても綺麗だった。
五条にとってもみやびは教え子だ。
俺と同じくみやびが卒業するまで待っていたんだと。
それからみやびを揶揄うのをやめた。
俺にだって分別はある。
みやびの事はきっぱり諦めた。
みやびが幸せならそれでいいと思った。
だが、五条は悪い男だった。
「くさかべぇ、また悟の女から電話掛かってきた。」
先月の初め、みやびから相談があると言われ2人で会った。
「また?五条と別れろって言われたのか?」
「うん。」
付き合い始めてから約3年、度重なる五条の裏切りにあい、泣きじゃくるみやび。
思わず抱き締めてしまった。
この時、俺は初めてみやびに触れた。
俺の胸の中で泣くみやびを改めて愛しいと思った。
五条と付き合い始めてからも本当はずっと好きだった。
朝起きた時も、仕事中も、飯食う時も、眠る前も、女を抱いてる時でさえ、みやびを想っていた。
「そんなに辛いなら別れろよ。泣いてるお前は……見たくない。」
少し、声が震えた。
抱きしめただけで緊張するなんて。
その後すぐ、みやびは五条と別れた。
「ンッ、あー、よく寝た。」
目を覚ますみやび。
「おはよう、みやび。寝顔可愛かったよ。飴、食うか?」
「うん。」
最近ではセクハラ発言ぐらいで照れるような事はなくなった。
起きあがろうとするみやびの背中を支えて起こしてやる。
「ほら、食えよ。」
飴を渡してやった。
「ありがと、日下部。」
ニコッと笑うみやび。
この笑顔が好きだ。
この笑顔を俺だけの物にしたいと何度思った事か。
飴の包みを開けるのに手間取るみやび。
「ほら、貸せよ。」
「うん。」