第2章 密事〜禪院直哉〜
私の名前は加茂みやび。
御三家、加茂家の娘。
加茂家相伝の術式を継いで生まれてきた。
だけど、女は当主になれない。
女はどこかいい家に嫁がなくてはならない。
だから子供の頃から花嫁修行をさせられた。
父はウチと同じ御三家の禪院家当主と仲が良かった。
私もしょっちゅう父に連れられて禪院のお屋敷へ行っていた。
そこには直哉くんという跡取り息子がいた。
この直哉くんという男は性根が腐っていた。
「みやびちゃん、しっかり覚えとき。女は男の3歩後ろを歩くんやで。3歩後ろを歩かれへん女は背中刺されて死んだらええ。」
子供の私にこういう事をよく言っていた。
「うん。私は直哉くんの後ついていくね。」
こう言えば直哉くんが喜ぶことはわかっていた。
「みやびちゃんはホンマに可愛いなあ。ほら、おいで。」
直哉くんはよく私を抱きしめたがった。
「はーい。」
私は嬉しそうに走って直哉くんの胸に飛び込む。
そうしないと、髪の毛を鷲掴みにされて引き摺られるから。
この頃の私はまだまだ弱く、年上の男に逆らえるような力はなかったから。
だから直哉くんの言う事を聞くようにしていた。
私は思った。
いつか、この男のサラッサラの金髪を鷲掴みにして引っ張ってやろうと。
「みやびちゃん、ホンマ可愛いわあ。」
そう言うと、直哉くんは私の顎をクイっと掴んでキスをした。
びっくりして直哉くんを見上げたまま固まってしまった。
不敵な笑みを浮かべながら私を見下ろしていた直哉くん。
「どないしたん?キス、嫌やったん?」
言葉にされて実感した。
私、キス……されたんだ。
まだ子供だった私は怖くて震えた。
直哉くんは相変わらずニヤついたまま私を見てる。
目に涙が溜まる。