第5章 遮二無二〜伏黒恵〜
恵を見上げる。
すると、ゆっくり恵の顔が近づいてくる。
そして柔らかな唇が触れた。
うそ……これって……
キ、ス?
な、何で?
優しすぎるよ。
こんな事までしてくれるなんて。
これはやり過ぎ。
好きな人とだけしなきゃ。
複雑な気持ちで恵を見つめた。
「ごめん!俺、そんなつもりじゃ……」
焦り出す恵。
じゃあ、どんなつもりなの?
その時、私のスマホが鳴った。
ハルくんだった。
今から来るって。
一方的な会話。
私を気遣う様子なんてない。
だけど、私は了承するしかない。
恵は自分の事の様に怒ってくれてる。
恵が部屋まで送ると言った。
断れなかった。
さっきのキスで脳が麻痺してる。
色んな思いが頭の中を駆け巡る。
部屋の前まで来るとハルくんがいた。
恵の姿を見てあきらかに怒った様子。
部屋に入ればまた殴られるんだろうな。
そしてまた無理矢理……
さっきの恵のキスを思い出して耐えよう。
「みやび腹減った、飯食わせてよ。」
何事もなかったかの様に振る舞うハルくん。
「さっきの何?」
「お前だって伏黒と何やってた?」
「恵とは別に何も……」
キスしたけど。
ハルくんはあの女と何したの?
無理矢理手を引かれる。
「和田さん、あんた何やってんだよ。」
ハルくんを睨む恵。
私の手を離し、恵に近づいていくハルくん。
そして恵を殴った。
「恵!」
「こうやってみやびの事も殴ってるんですか?」
煽る恵。
案の定、キレるハルくん。
再び殴った。
よろめき、血を吐く恵。
その瞬間、私はキレた。
私の恵に……
よくも、私の恵に……
ハルくんに飛び後ろ回し蹴りをキメた。
「私の恵をいじめるな!このクズ男!」
倒れたところを絞める。
怒りに我を忘れた私。
「みやびもういいから、落ち着いて。」
恵の声が聞こえた。