第5章 遮二無二〜伏黒恵〜
今日はハルくんのお誕生日。
プレゼントは革のキーケース。
ハルくんの好物のローストビーフとポテトサラダも作った。
ローストビーフは焼き目をつけてから保温してじっくり火を通す。
火が通るまでの間にお風呂に入る。
アロマオイル垂らしていい匂いを体に染み込ませる。
気づくとのぼせちゃったからベランダで涼む。
そしたら、恵がいた。
大好きな恵が。
「長風呂は気をつけて下さい。貧血気味なんですから。」
優しいなぁ。
そういう優しさは好きな人にとっておいて。
勘違いしちゃうから。
恵がいなくなってから部屋に戻り、ローストビーフを切り分ける。
「完璧じゃん。」
出来栄えに納得し、支度をする。
ハルくんが買ってくれた黒のニットワンピにハルくんが買ってくれたネックレス。
髪型はハルくんの好きなポニーテール。
化粧はごく薄く。
準備万端。
だけど、約束の時間になってもハルくんが来ない。
電話しようとも思ったけど、せっついて機嫌損ねたくないから待った。
刻々と時間は過ぎる。
2時間ほど過ぎた頃、流石に耐えきれなくなり電話をかけた。
だけど、出ない。
何度もかけたら怒られそうだし、どうしたものかとそこから更に1時間悩んだ。
そしてようやく意を決して部屋を出た。
約束の時間から3時間と少し経っていた。
ゆっくりと歩きながらハルくんのマンションを目指す。
今、こっちに向かってるかもしれない。
一縷の望みを抱きながら歩いた。
マンションに着き、インターホンを押すも反応がない。
何故、そこで帰らなかったのだろう。
もらっていた合鍵で鍵を開けた。
そして中へ入った。
後から思えば居留守を使ったのはわざと私に入らせるためだったんだろう。