第72章 記憶喪失の少年
船はソルティコから順調に外海へと進んだ。
潮風が心地よく顔にあたる。
「気持ちいい〜!」
サランは甲板でグイッと体を伸ばす。
シルビアは舵を取りながら機嫌よく鼻歌を口ずさむ。
その側にはブレインが立っていた。
「いい潮風だわァ〜
さぁここを抜けたらいよいよ外海よ!
気を引き締めて行きましょう!」
鼻歌を歌い舵を取るシルビアを嬉しそうに見つめる。
それがなんだか面白くないなとユキはフンと鼻を鳴らす。
外海に出る直前のことだった。
船倉からガタンと大きな音がする。
「ん?なんの音?」
サランもシルビアもその音に驚いた。
「船倉の方から音がしたけど何かしら?
ブレインちゃん、悪いけどちょっと見てきてくれる?」
ブレインはうなづいて船倉へ向かった。
その前に音が気になったサランが既に船倉前にユキとやってきていた。
サランがドアを開けるとスンスンと匂いを嗅ぎながら物音の正体を探す。
そこには無我夢中で食べ物を頬張る青年の姿があった。
「グル?」
ユキが小さく嘶く。
「ん?うわぁ!魔物!」
青年は突然現れたホワイトパンサーに腰を抜かした。
「ユキ?なにかいたの?」
サランがユキの後ろから顔をのぞかせる。
「あ、あ、あ…」
青年は怯え声を失った。