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月夜の歌姫

第71章 指輪


サランは遠くなる意識の中、もう全てをブギーに捧げることをぼんやりと思っていた。
シルビアのことも忘れ、全てはブギーのために。

マルティナの胸の中でぼんやりとそう思わされた。

「世界平和、ウルノーガ打倒、全てを捨ててブギーの下僕になることを受け入れかけた。
……いいえ。ほぼ受け入れてたんです。
いくら、妖魔軍の魔術とは言え…シルビアさんのことに関しても記憶が曖昧になり…でも、シルビアさんのことを思い出せたんです。」

そういうと痛みを我慢して左手をあげる。
左薬指にはまっている指輪を見つめた。

「シルビアさんとの“約束のお守り”
この指輪を取られそうになった時に全てがハッキリしたんです。
私には大切な人がいるって。それを思い出せなかったら私は今頃ブギーのペットでしたよ。
あんな奴のために歌わされてたと思うと寒気がします。」

シルビアはゆっくりサランに近づき左手を握りしめた。

「でも、あなたをちゃんと最初から守れてなかったのは事実でしょ?」

「もう…シルビアさんは私が傷つくと
シルビアさんまで傷つくんですから。
仕方ない人ですね。」

いたずらっ子のようにサランは笑った。

「ありがとう…サラン。
本当にあなたは強くなったわね。」

シルビアはサランの額に唇をそっと落とした。

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