第61章 前を向くために
母親は優しく頭を撫でて抱きしめた。
「私がいないのはサランが大人の女性になったからよ。それにお母さんはずっとあなたのそばにいたわ。」
抱きしめられた体はいつの間にか成長をしていて鏡に映ったのは今現在のサランだった。
「サランが大きくなるまでずっとそばにいたのよ。
月の女神の加護と共に。本当に大きくなったわね。
お母さんはとても嬉しいよ。」
大人になったサランを見て母親は寂しそうに笑う。
「サラン…あなたは月の女神様の加護があるように願った名前なのよ」
母親はそう言うと壁に名前を書いた。
「月の女神様セレネ。
あなたのお父さんが考えた名前なのよ。」
セレネ?
「私はサランじゃないの?」
小さな女の子であったサランの素朴な疑問に母親はおかしそうに愛おしい眼差しでサランを見つめながら笑う。
「いいえ、もともとあなたはセレーナという綴りの読み方を変えたのよ。お父さんはセレナがいいってずっと言っていたけど。本当の女神になってほしくはなかったから却下したけどね。サラン、あなたは命に変えても守りたいものが出来たの?」
サランの脳裏に色々な人が浮かび最後はシルビアのあの優しい笑顔を思い出す。その様子を見て母親は嬉しそうに微笑んだ。
「もう、あなたは私が守らなくても大丈夫。
きっと女神様のお力も使えるようになるわ。
だからサラン?どうか元気でね」
母親がサランに優しく額にキスをする。