第1章 Du sollst an mich denken
『失礼します!今日より着任します川崎ミアです。よろしくお願いいたします』
私は元気よく自己紹介をして、上半身を90度に折り曲げて挨拶をした。
降:「はは。これまた、とても元気が良いですね」
『申し訳ありません!』
緊張して声が大きくなってしまった私は、降谷さんに咎められたと思って直ぐに謝罪する。
降:「ああ。すみません…そういう意味では。ひとまず、頭を上げてください」
『はい!』
私は言われた通りに頭を上げると、デスクに座っている降谷さんと視線がぶつかった。
初めて会う憧れの人が目の前に居る。
彼は、風の噂に聞く「ドS上司」とはかけ離れた優しい面持ちで、私を見つめ返していた。
降:「改めまして、降谷です。川崎さん、今日からよろしく」
『はい!どうぞよろしくお願いいたします』
降:「元気が良いことは素晴らしいね。とはいえ、その声が外にも響いているから、中に入ってもらっても良いですか?」
『失礼しました!』
私は憧れの降谷さんを目の前にして緊張してしまい、今まで自分が扉を全開にして会話していることをすっかり忘れていた。降谷さんにそれを指摘されて、一気に頬が赤くなるのを感じた。
降:「まぁ、そんなに緊張しないで。早速だけど、今日からの任務について話しますね」
『承知しました!』
私は再度、上半身を90度に折り曲げて返事をする。
降:「そうだね。まず、そこに座って貰えるかな?」
ふと、降谷さんの話し方が変わったことに私は気づいた。
『え?』
降:「ああ。話し方?僕、信頼している部下たちには口調がくだけるんだ。不快だったら、言ってね」
『そんなことありません!』
私は、降谷さんの返事に天にも登る気持ちになる。
(あの憧れの降谷さんに、「信頼している」と言ってもらえた!)
私は笑みが溢れるのを構わずに、指定された席に腰掛けた。
ゼロでの勤務が、こうして始まった。