第1章 Du sollst an mich denken
私は、今日から警察庁警備局警備企画課に出勤する。
警察庁に入庁して3年。私は、ついにこの部署に着任する。
全国の警察官でも一部の人間しか知らない部署。
全国の公安警察を束ねる影の司令塔。通称「ゼロ」だ。
私がこの部署へ異動希望を出したのは、どうしても働きたい憧れの存在がいたからだ。
その人の名前は、降谷零さん。
この部署の実質的なリーダーを務めている人。
ゼロを束ねているということは、引いては全国の公安警察を率いていることになる。
その立場に、異例のスピードで君臨した人だ。
先の国際的な組織壊滅に多大な尽力をした事で今の地位に就いたとはいえ、元々彼が優秀でないと、そんな大きな任務は任されない。
誰もが彼を警察庁のエースと認めている。
そんな人物の元で働きたいという人間は、私も含めて後を断たない。
さらに、風の噂で降谷さんの部下たちは、「ドM集団」とも言われている。
理由は、非番であろうと平気で彼に呼び出されるにも関わらず、彼らは一様にして「ずっと働き続けたい」と言うからだ。
故にゼロへ新規異動することは、宝くじで高額当選するよりも難しいと言われている。
私の異動願いが通ったのも、現任者の1人がFBIへ長期研修に行くことが決まったからだ。
私の前任上司も、「異例の辞令だ」と言っていた。
いずれにせよ私は今日から、ずっと憧れの人の元で働く事には変わりはない。
私は、嬉しさと緊張が入り混じった面持ちで指定された部屋の扉をノックした。
「どうぞ」
中から、入室を許可する返事が聞こえてきた。
私は、勢いよくその扉を開いた。