第2章 Trick or Treat !?
僕の腕を掴んでいたのは、川崎さんよりも小柄な女性だった。
彼女は魔女の仮装をしている。
川崎さんの衣装を探している時に目にした人気ランキングで、魔女は「王道コスプレ」と書いてあったことを僕は思い出す。
もちろん僕も、彼女に見覚えは無い。
事前にインプットしてある組織関係者にも該当しないので、営業かプライベートで相手を探しに来た一般客だろう。
僕は、この場を適当にやり過ごしてしまおうと考えていた。
降:「迷子ですか?可愛い魔女さん」
僕は、安室透の時に使っていた笑顔を彼女に向ける。
「迷子というか…探しているの。私をエスコートしてくれる人を」
(やはりナンパ目的だったか…)
と思いながら、僕は少し残念そうな表情に変えながら彼女の耳元に唇を寄せた。
降:「そうでしたか…魔女さん。残念ながら僕は悪魔じゃないから、貴女のパートナーにはなれそうもありません。貴女には、もっと相応しい悪魔がいますよ」
「え?」
彼女が返事をするのを待たずに、僕はその場を去ろうとした。
しかし、僕はまたも腕を掴まれてしまう。
「待って!私は、悪魔じゃなくても良いの。ううん。貴方がいいの!」
僕を行かせまいと、彼女は僕の腕を強く引いて来た。
穏便に済ませたかった僕は、彼女に気づかれない様に小さなため息を吐きながら、振り返る。
その時、耳につけた無線に風見の声が入った。
風:「降谷さん…すぐに来れますか?川崎さんが…」
電波の調子が悪いのか、風見の声を最後まで聞き取ることができなかった僕。
ただ、風見の緊迫した声から察するに、不測の事態が起こったことは明らかだ。
すぐにでも風見と連絡を取りたい僕は、事を荒立てまいとして彼女の耳元にもう一度、唇を寄せた。
そして、わざと色気を含ませた声で囁いた。
降:「ごめんなさい…魔女さん。僕には、心に決めた人が居るんです。その人以外、僕は考えられないので」
驚いた彼女が、僕の腕を掴む力を緩めた。
その瞬間、僕は掴まれていた腕をそっと抜いて、すぐにその場を立ち去った。
後ろで彼女の声が聞こえた気がしたが、気付かぬフリをして…