第2章 Trick or Treat !?
夜のガーデンパーティのような会場に私は、足を踏み入れた。
私の衣装が不似合いなのだろう、周辺にいた男性陣がすぐに好奇な目を私に向けて来る。
(そんなにマジマジと見ないで欲しい…年齢に不釣り合いなのは、百も承知よ…)
私は内心を悟られない様に、無表情を決め込んで会場の奥へと歩いていく。
出入り自由であるので、私は開始時刻から30分ほど遅れて潜入している。
その為、会場内は既にいくつかのグループが出来ており、それぞれの話に興じている姿が見受けられた。
今日の私は、IT企業の秘書という設定だ。
本来ならば社長と同行するはずが、社長は急なトラブル対応に見舞われて不在。
代わりに私のみ、ご挨拶に伺ったという体で潜入している。
本来であれば、営業スマイルを湛えながら取引先や見込み顧客になりそうな人物へ、挨拶回りをするのが通例であろう。
とはいえ、会場内にいる人たちは程度の差はあれ、皆、思い思いに仮装している。
誰が誰なのか正直、判別できない。
「こんな場でビジネスの話をする者など皆無だろうな」と思いながら、無表情のまま(ご本家のキャストさんと同じ演出をしているとは、知らずに)会場内を私は隈なく歩いて回った。
ターゲットから声をかけられるのを待つのと合わせて、地下通路への入り口を探すためだ。
(思った通り、既に裏のパーティは開始しているようね…)
会場内を1周して、おおよその把握ができた私。
事前にインプットした参加者とは、会場内にいる人数が明らかに合わない。
これだけの規模のパーティで参加者がドタキャンをすることは、そうないだろう。
だとすれば、多くの参加者が別の会場に居るのは火を見るよりも明らかだった。
会場探索の2周目に入ろうとした瞬間、私は後ろに人の気配を感じて、少し身構えた。
すると、私の耳元で少しだけ低い男性の声が響く。
「Trick or Treat!なんてね…可愛いメイドさんには、特別なお菓子をあげたいから…僕について来ない?」
私は内心で「ついに来たな」と思いながら、相手にだけ伝わるように小さく頷いた。