第2章 Trick or Treat !?
降:「あれ?ヘッドドレスは着けないの?」
(うっ…目ざとい!)
これ以上、降谷さんと衣装の話を避けたかった私。
窓の外を眺めながら、車内での会話をやり過ごそうとしていた。
しかし、うちの鬼ボスはそんな私の考えを簡単に退けてくる。
『ヘッドドレス…ですか?』
何のことを言っているかわかっているが、私はあえて惚けて見せる。
私なりの小さな抵抗だ。
もちろん、こんなことは無駄に終わるのだが。
降:「入っていたでしょ?コウモリがついた『可愛い』カチューシャみたいな物」
「可愛い」を強調した言い方をしている降谷さん。
『はい…あれ、ヘッドドレスって言うんですね!』
私は見当違いな返事をする。
降:「そう。それで、着けないの?あの可愛いの」
私の小さな抵抗は、お見通しとばかりに再度、訊ねてくる降谷さん。
もちろん執務室で一度、私はヘッドドレスを身につけた。
降谷さんが言う様に、可愛いコウモリが付いているそれを身につけると、服装の妖艶さとのアンバランスで余計に私は恥ずかしくなった。
(これが世に言う「萌え」要素なの?)
そんなことを考えながら、すぐさまヘッドドレスを外してカバンに押し込んだのは言うまでもない。
私は、ヘッドドレスが入ったカバンを強く握り締めながら、諦めて答える。
『うっ…つ、着けます。現場についてから』
降:「あれを着けないと、完璧じゃないからね。忘れないように、川崎さん」
(完璧じゃなくてもいいよ…)
『承知しました』
内心では、恥ずかしさのあまりに逃げ出したい思いを抱きながら、私は笑顔で降谷さんへ返事をしていた。
ほんの少しだけ、「降谷さんが選んでくれたことを喜んでいる気持ち」も隠しながら…
そして後に、私はこのヘッドドレスを身につけていたことを感謝することになる。