第1章 Du sollst an mich denken
降:「そんな表情もするんだね。それとも、こちらが本当の君かな」
落ち着いているけれど、どこか色気も含んだ声で、降谷さんは私に訊ねてくる。
頬だけでなく、耳までも熱くなるのを私は感じた。
(目の前に居る人は、本当にあの降谷さんだろうか?!)
この部屋に入室してから起こる出来事が、急展開過ぎる。
最初は感情を押し殺し、私を恐怖でドキドキさせていた人が、今は別の理由でドキドキさせている。
(この展開、何?!私、どうすべきなの?)
正常に戻りかけていたはずの思考が、またもショートし始める。
現状を打開する術を私は、必死で考えた。
結果、「3年前の出来事を忘却していた己の失態」を釈明すべきだという結論に至った。
『あ…あの…失態続きで申し訳ありませんが、私に言い訳を許可していただけますか?』
この場の雰囲気に全くそぐわない発言が、私の口から飛び出す。
私の思考はショートしていたので、致し方ない。
もちろん、先ほどまでの甘い空気が一変した。
降:「っぷ!ちょっと、待って…まさか、そう言うことを言っちゃうの?ははっ!!」
『‼︎?』
言った本人も、まさかこんな台詞になるとは思っていなかった。
故に、その先の言葉を継ぐことができない。
そんな私の様子を無視して、盛大に笑う降谷さん。
私の頬の赤みがさらに増す。
もちろん、先ほどとは違う恥ずかしさの所為だ。
降:「ごめん。ごめん…本当に、君を揶揄うつもりはないんだ」
一頻り笑い終えた降谷さんが、いつもの落ち着いた声で話し出した。