• テキストサイズ

【R18】コナン短編集【赤井秀一・降谷零】

第1章 Du sollst an mich denken


『え?』

次の瞬間、私の頭にそっと手を置く降谷さん。
その表情は、愛おしい物を見つめる優しい目元に戻っている。
口調もいつもの親しげな物に変わっていた。
目の前でクルクルと変わる彼の表情に、私は思考も気持ちも全く追いつかない。
私は先日と同様に、口をパクパクさせていた。

(私、前世は金魚だったのかも?)

自分の思考を遥かに超えた状況に身を置かれると、人間は全く関係ない事を考えて現実逃避を始めるらしい。
警察学校でそんな事を習った気もするが、その真偽は二の次だ。
本来の思考を即座に取り戻す方法を、私は学んでおくべきだった。

(ダメだ…何も考えられない…)

私は、お手上げ状態。
そんな私の狼狽えぶりを察した降谷さんが、声をかける。

降:「そんなに緊張しないで。昔話の続きを聞いてくれる?」

彼の優しい声音が室内を満たし、私の思考が現実に引き戻された。
私は、小さく頷く。

降:「僕は3年前からずっと、君の行く末を楽しみにしていた。僕の右腕になってくれる日を待ち侘びながら。そして先週、ついに君は僕の元にやって来た。にもかかわらず、君は僕とは初対面だと言う。僕の期待は大きく打ち砕かれたよ。同時に、どうしたら君に気づいてもらえるかとも考えた」

そこで言葉を切った降谷さんは、私の瞳を覗き込む。
彼の表情は悲しそうで、同時に悩ましげでもあった。
今まで見た事もない降谷さんの表情。
それは、いつも見ている完璧な上司の姿とは別の意味で、私を惹きつけた。
私の中で、何かが音を立てて崩れた。
噯にも出さない様にしていた彼への気持ちが、一気に溢れ出す。
私は、自身の頬が熱を持ち始めるのを感じて、気づかれない様にすぐに俯いた。
しかし、その行動は途中で阻まれる。
降谷さんが、私の頬に手を添えたからだ。
/ 57ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp