第1章 Du sollst an mich denken
『それ…私です!』
先ほどまで、ぼやっとしていた感覚が一気にクリアになる。
同時に先ほどまでの違和感も一掃される。
胸の支えが取れた私は、降谷さんと同じく安堵の表情を浮かべながら、答えた。
ところが降谷さんは口の端を上げて悪戯っ子のような顔に、一瞬にして変わる。
降:「そうですね…3年前、この部屋に貴女は同じように、謝罪しに来ていましたよ?」
記憶が次々と蘇る私は、降谷さんの表情が一変した理由をすぐに察した。
『ちょっと、待ってください‼︎私…』
降:「ひどいですね…川崎さんは」
『いえ…その決して、降谷さんを忘れていたわけではなくて…』
しどろもどろで、話し出す私。
そんな様子を楽しむように、笑みを深くしながら降谷さんは私に近づいてくる。
(な…なんで、近づいてくるの?!)
予想外の展開ばかりで、仕事に関しては正常に働く私の思考が、ショート寸前だ。
反射的に後退りしてみるものの、すぐにドアにぶつかってしまった。
『ふ…降谷さん!?』
恐怖に慄いた声が、私の口から漏れる。
降:「ごめん…揶揄い過ぎたね」