第1章 Du sollst an mich denken
降:「爆弾テロが発生した。今から、現場に向かう」
『爆弾テロですか?』
降:「ああ。サイバー攻撃をしかけていた犯人グループからテロ予告が入ったそうだ」
『あのグループですか?』
先ほど、想定していたことが無に帰す急展開。
私は、降谷さんの言葉をオウム返しするので精一杯だ。
降:「今までは、やはり序章に過ぎなかったのか…こちらが、本命か!」
そんな私とは裏腹に、降谷さんは冷静に事態を分析し始めている。
彼は険しい表情を浮かべながらアクセルをさらに、踏み込んだ。
RX−7は唸り声のようなエンジン音を上げながら、加速する。
まるで、降谷さんの怒りを代弁しているようだ。
情報流失という被害は出ているとはいえ、これまでは人命を危険に晒すことがなかった犯人グループ。
それが急に凶暴化したことで、警視庁捜査本部も大慌てになっているだろう。
まずは、いち早く現場に急行して状況確認が必要だ。
この後の動きを再度、シミュレーションし始めた私は、ふと「爆弾テロ」という言葉に何か引っかかる物を感じた。
(爆弾テロ?前にも経験している、私?)
前任部署が、国際テロリズム課であった私。
「爆弾テロ」という言葉を日常茶飯事で耳にしていたが、実際の現場に臨場することはなかった。
にもかかわらず、「爆弾テロ現場に臨場した」感覚を私は持っている。
しかも、隣に降谷さんが居た感覚がある。
(そんなはずは無いのに、なぜ?)
この違和感の理由を明らかにしようと私は思考をめぐらせていたが、RX―7が急停車したことで中断を余儀なくされた。
私は今までの考えを頭の片隅に追いやり、再び、目の前の事件に意識を向けることにした。