第1章 Du sollst an mich denken
私たちは今から、警視庁の風見さんと接触する。
今月に入って連続発生している民間企業を対象にした、サイバーテロ事件について情報交換をするためだ。
通常であれば、警視庁のサイバーセキュリティ対策本部が中心になる事案である。
しかし、今回のテロ犯は今までの犯罪者と、異なる点が多い。
例えば、攻撃対象の業種、規模が定まっていない。
また、攻撃された際に企業側が被害を被らない場合もある。
つまり、テロ犯が何を目的としているか不明確なのだ。
こういった点が捜査を難航させ、事件発生から2週間経った現在、捜査自体が暗礁に乗り上げていた。
故に、ゼロの出動が3日前に決定したのだ。
今日は、風見さんと接触する2回目。
捜査の進展は見られないので、それぞれの役割を明確にするのが今日の主題になるだろう。
私は一定のリズムを刻むエンジン音が響く車内で、これからの打ち合わせに向けて意識を集中させようとした。
その時、降谷さんの携帯に不意に着信が入った。
降:「どうした?」
スピードを緩めずに、電話に応える降谷さん。
その表情は、段々と厳しい物に変わっていく。
降:「わかった。直ぐに現場に向かう」
短いやり取りをして、電話を切った降谷さんは対向車線の様子を確認した後、私に一言だけ指示する。
降:「川崎さん、しっかり掴まって!」
そう言うや否や、RX−7はタイヤから煙を上げながら見事なUターンを決めた。
一瞬、何が起こったか気づかなかった私は、車と一体化しているような降谷さんの動きに、目を奪われるだけだった。
(卒倒しそう…降谷さんの格好良さに…)
車内の緊迫感とは程遠い思考が、私の頭の中を駆け巡った。
しかし、降谷さんの鋭い声で私はすぐに、現実に引き戻される。