第1章 Du sollst an mich denken
降:「それとも、上司の僕には言えないことでもあるのかな?」
『…』
彼女は、口を金魚のようにパクパクさせている。
降:「これから一緒に働くんだから、教えてもらえる?」
追い討ちをかけるように、僕は彼女へ質問した。
彼女は、意を決したようだ。
『初対面の降谷さんに言うのは、憚られるのですが』
降:「え?!」
彼女の一言に、今まで優位に立っていたはずの僕が呆気に取られる。
降:「ちょっと待って。初対面?!」
『はい!降谷さんにお会いするのは、今日が初めてです。ずっと、憧れていた人の元で働けることが嬉しくて、昨日も眠れませんでした。その降谷さんと組んで仕事ができるなんて。卒倒しそうです!』
先ほどまで、困惑していた彼女は一転。
(「推し」への愛を惜しみなく語るというのは、こういう事なのか?)
淀みなく話す彼女に、変な思考が僕の頭を駆け巡る。
そして彼女が語った内容に、僕は耳を疑った。
(今、目の前にいる彼女は、『右腕になります!』と言った人物と、同一人物なのだろうか?)
今度は、僕の口がパクパクしそうになった。