第1章 ラビスタ編〝未来の海賊王へ〟
それから時間は過ぎていった。時刻はすでに23時を回っている。
人によってはすでに就寝する者もいるだろう。船内でもすでにゾロとルフィの姿がいなかった。
その頃キルマは久々の外泊を堪能するかのように船先頭の甲板の高台でかぜにあたっていた。
数分して高台を降りようと振り返ると反対側の甲板上の手すりに肘をかけ、果てしなく広がる海を酔いしれるように見つめているビビが視界に入った。足元にはカルーが目を閉じてうずくまっている。
嵐が明けラビスタ島にたどり着いた一隻の海賊船は約十数隻が停泊出来るほどの港を独占し、街頭や街明かりでカラフルに彩られた夜景を一望できる。いつもより静かな夜この景色を見れたものは、キルマの記憶上だとおそらく彼らだけだ。
そしてもう一生この景色を見ることもないかもしれない。キルマでさえもこの景色に溺れてしまう。
さっきまで結ばれていたビビの水色の長髪はまるで海を映すように風に靡いている。
足音を立てないようゆっくりとビビに近づくと少し離れたフェンスにキルマも肘をかけるが、それにビビが気付くことはなかった。
一体何を考えているのか。薄暗い遠くを見たままビビは目線を逸らそうとはしなかった。
”『――シア』”
ふと、ビビに似た水色髪の長髪がキルマの記憶に傷を付けながら呼ぶ。そういえば、とキルマは乾いた眼を潤した。