第1章 ラビスタ編〝未来の海賊王へ〟
「…ほんとにここでいいのか? 結構ここじゃいい店だろ」
店の前につくと煙草を吹きながらサンジが呟いた。
店の外見はいたって普通の酒場と変わらない。しかし本来酒場から香るはずがない、店の外からでも漂う香り高い数々のスパイスが調合された調味料と香辛料の香り。
後から鼻に残るフルーティーな甘さは肉本来の柔らかさを引き立て口当たりを優しくする。肉を扱う店では基本中の基本だ。
目を閉じていれば高級料理店を思わせる程の出来に料理人であるサンジの心をくすぐった。
(ただの酒場じゃねェな…)
サンジは赤色に光る看板を見つめながら煙草を吹かした。
「お、分かる? さすがコックさんだね。」
そう言いながらサンジに近づくと加えていた煙草を奪う。
「ちなみに酒場だけど禁煙です」と笑顔で地面の砂利で火を消すとサンジの顔が引くつき、キルマはそのまま店内へ入って行った
「ジークさん七人分のお水! あ、お会計は一緒にして僕に頂戴ね」
キルマの視線の先には、眉間に皺を寄せた無愛想な店主のジークが出迎える。けして不機嫌なわけじゃない。いつもの彼だ。
「好きな場所に座って」とキルマが皆に声をかけメニューを渡すと、それぞれが自由に席に着いた。
四人掛けの机にナミとサンジ、ウソップとチョッパーが腰かけ、カウンターには左端からルフィとゾロがハイチェアに腰かける。
空いてるカウンターに置かれたトレーの上には水の入ったグラスが五つ、そして四人分のナイフとフォークが入ったシルバーケースにナフキン。それをトレーごと持ち出し、ナミ達の座る四人掛けのテーブルへ配る。
カウンター前に座ったルフィとゾロにはジーク自らが机にグラスを置いた。
その無駄のない動きからお互いかなり手馴れているのが分かる。
おそらくこれが初めてのことではない。
彼が言う“人にお金を使うのが趣味”と言うのは、どうやら嘘ではないみたいだ。
そんなキルマの姿を横目で見ながらゾロは出されたグラスを手に取ると中に入っていた氷がカランカランと涼しげに鳴る。
注がれた水と氷を一度見るとそのまま何事もなかったように口に含んだ。
キルマのいつも座るカウンター席にはルフィが座ってしまったため、仕方なくゾロの隣のハイチェアに座り、残ったグラスを片手に持つと反対の手でジークにトレーを手渡した。