第1章 ラビスタ編〝未来の海賊王へ〟
それから数時間が経過した。
さすがに砂遊びにも飽き、作った砂の山も、手の届く範囲で集めたシーグラスも貝殻も、すべてがなかったかのようにその場で大の字に寝転んだ。
ただ木の隙間から見える嫌なくらい青い空をぼーっと眺めていると聞き覚えのある低い騒音が聞こえ、思わず上半身を起こし目の前に広がる海に視線を向けた。
まだだいぶ先の方ではあるが、海の先から海賊旗を指した海賊船が直進してくる。
(――幻覚か…?)
彼がそう思うのも無理はない。なんせこの島の周辺に他の島なんてないからだ。
というのも、ラビスタ島から他の島へ行くのに早くて三日はかかる。つまりあの船は昨日の嵐を抜けてきたことになる。
ラビスタ島の領海は他の海と比べ天候が変わりやすく、そして分かりやすいことで有名だ。
明日は晴れ。明後日は雨が続く。ラビスタ島に住んでいるものであれば、航海士でなくても空を見ただけで分かる。
嵐であれば、嵐が過ぎたら島に入り、嵐が来ると知れば嵐に巻き込まれる前に島を出る。もはやここでの常識だ。
普通に考えても運悪く沈没するリスクを考え、ここは大抵はおとなしく嵐が過ぎるのを他の島で待つ船が多い。それ以外は論外と言ってもいい。
「うそだろ…」とキルマは顔を引きつらせるも、どこか嬉しそうな表情を浮かべながらテトラポットに置いていったままの拡声器を取りに立ち上がった。