第1章 理想のペアと千の技を持つ男
一旦、宿舎部屋に引き返した丸井はラケットを取りに行ったあと、合宿所のトレーニングルームに向かうことにしました。
ミーティングルームの前を通りかかると、金色小春と一氏ユウジが抱き合っている姿が丸井の目に映ってしまいます。
あまりのことだったため、丸井は片手に持っていたラケットを落としてしまいました。
「誰!?」
と、金色小春が廊下をのぞきますが、誰もいませんでした。丸井は落としたラケットを拾ったあと、忍び足でダッシュで逃げることに成功したようです。
「どうした小春?」
一氏が尋ねると、金色は潤んだ瞳で一氏を見つめます。
「誰かがアタシたちを見ていた気がするの。きっと、アタシが好きな人ね。もし、そうならアタシ、惚れちゃいそう……」
「浮気かっ!」
金色と一氏が会話のやりとりしている間にも丸井は、
「ふうー」
と、金色と一氏に見つからずに済み、ホッとしたような小さいため息をつきながら、廊下を歩いていました。
そして、トレーニングルームの中に入ると、誰かが器械を使用しているか、奥から音が聞こえてきます。木手永四郎がぶら下がり健康器で筋力トレーニングをしていました。