第8章 恋を知らないマーメイド
−轟side−
「いや、心配なのもあるけどただ俺が送りたいから送る。」
俺はそのまま返答を待たずに
プールサイドの扉から廊下に出た。
放課後なので廊下には誰もいない。
ふう、と一息つくと扉の向かいの壁に寄りかかる
人魚、か…。
どうりであいつは美人なわけだ
人魚って美人なイメージあるし
ただ、もっと自分に自信持てばいいのに。
それにしても、
やっぱり見覚えがあるんだよな
海波のあの色の目。
海みたいな色って思ったのは
初めてじゃない気がする。
でも、なんでかは分からない。
海波と会ったのは昨日が初めてのはず。
『轟くんお待たせ!ほんとに待っててくれたんだね?』
廊下で1人頭を悩ませていると
丁度そのタイミングで制服に着替え終わった
海波がプールサイドの扉から出てきた。
「なぁ、お前昔どこかで俺と会った事ないか?」
突然すぎるこの質問。
自分でもなんでこんなこと言ったのかわからない
会ったことなんてあるはずないのに、
海波からすれば何言ってんだ、
と思うだろう。
『え??…う〜ん、会ったのは昨日が初めてじゃないかな?』
「そう、だよな。変なこと聞いて悪い。…じゃ、帰るぞ」
海波も昔会ったことなんて無いと言っている
なのにこの不思議な感覚はなんなんだろう。
どこかモヤモヤした感覚のまま
俺と海波は並んで歩き出した。