第8章 恋を知らないマーメイド
学校を出てから何分くらい経っただろうか
海波を送るために家に向かっている途中、
頬に冷たい水滴が垂れてきた。
徐々にその回数は増えていき、
上を見上げると空は雲がかかっていて
雨が降り出しているということが分かる。
「雨か…」
(まずいな…俺傘持ってねぇ)
というか朝から太陽出て
めちゃくちゃ晴れてたのに
急に雨が降るなんて思わないだろ普通。
海波も傘は持ってないようだし
最悪俺は全然濡れてもいいが俺が傘を持っていないと海波に傘をさしてやれない。こうしてる間にも雨はどんどん強まっていく。
『轟くん!私の家もうすぐだから走ろ!!』
「え、おい待て海波…!」
海波が突然走り出したもんだから
とりあえず俺も追いかける。
とりあえず追いかけたはいいが、
『風邪ひいたら困るから、とりあえず家あがって!!』
流れでそのまま海波の家にあがってしまった。
(こいつ…一人暮らしみたいだな。一人暮らしの女子が男家にあげるとか、少しは警戒しろよ…)
家に人はいないし、
靴も海波のものしか置いてない。
多分一人暮らしをしてるんだろう。
男を家にあげる時点で
警戒心なさすぎだと思うけど
一人暮らしで家に入れるとか
本当に警戒心がなさすぎて逆に心配になる。
『はい、これ使っていいよ』
そう言って差し出されたのは一枚の白いタオル。
「あぁ、ありがとう」
お互い雨水を制服の上から
被りに被ったもんだから
頭から足の先まで雨でびしょ濡れだ。
タオルで洋服を軽く拭いてから
一番雨を被った髪の毛を拭く。
「なんか…お前今日の戦闘訓練の時もびしょ濡れだったよな」
『えっ?あ〜…あれは仕方ないの!それより、このままじゃ風邪ひいちゃうしよかったらお風呂入ってきていいよ』
(え…いや、それはありがたいが…普通、そんな簡単に風呂まで貸すか…?)
「あー…俺は個性の炎であったまれるから、海波先入ってこいよ。お前に風邪ひかれたらそれこそ困る。ここ海波の家だし」
『…そう?じゃあ、なるべく急ぐから私先入ってくるね!』
海波はタオルを手に持ったまま
お風呂場へ向かい俺は左で小さく炎を出し、
雨に濡れた服が乾くようにそっと近づけた。