第8章 恋を知らないマーメイド
『…ちょっとだけなら…いいよ』
轟くんの右手がそっと私の足(ヒレ)に触れる
上から下へと撫でるように触れられて、
私の心臓は既にすごい速さで脈打っている
まさかこの足を人に触られる日が来るなんて
思ってもいなかった。
(やばい、これ、思った以上に恥ずかしい…‼︎)
「すべすべしてる…それに、やっぱり綺麗だ」
(あぁぁだからなんで君はさらっとそういう事言うんだ!)
私は既に真っ赤になってしまっている顔を隠そうともう一度目の前のプールに正面から飛び込んだ。
「…ど、どうした?」
『……もうおしまいっ!!これ、触られる側思った以上に恥ずかしいんだからね…!』
私は水面から少し顔を出して
轟くんの方を見上げる。
この姿を見られて、触られて、
綺麗とか言われて…色々感情が追いつかない
「…そういえばなんで今プールにいるんだ??その姿で泳ぐためか?」
『それはね、私冷たい水に浸かると個性というか体力というか、なんか、元気になるんだよね!だから…ちょっとした休憩みたいな?』
私が暑さに弱いことも
個性のことも知っている学校側は
プールの使用許可もすんなり出してくれたし
せっかくだから行ってみようと思ってここにいる
「そうか、そろそろ帰るのか?」
『うーん、そうだね、十分休憩したしそろそろ帰ろうかな!』
「じゃあ…廊下で待ってる。」
そう言った轟くんは立ち上がり、
身だしなみを整えると
プールサイド入り口の扉に手をかける
『…待ってるって何で?』
「帰り、送ってく。また暑さで倒れそうになったら心配だしな」
『えっわざわざ送ってもらうなんてなんか申し訳ないよ…!それに私この程度の気温で倒れたりしないし!』
わざわざ送ってもらうのは気が引ける。
そして私そこまで体弱くないから!!
というささやかな抵抗の言葉を添えておいた。
「いや、心配なのもあるけどただ俺が送りたいから送る。」