第8章 恋を知らないマーメイド
−あくあside−
“いや、綺麗だと思った。
お前のこの瞳も、その足も”
“気持ち悪いなんて微塵も思ってねぇよ。
それに、人魚の姿になったって
海波は海波だろ”
こんな事言われるなんて思ってなかった
この足を、綺麗と思ってくれるなんて。
姿が変わっても私は私、か。
きっと私が1番言って欲しかったであろう
言葉をかけてくれた轟くん。
それも素でこんな言葉が出てくるなんて、
外見だけじゃなくて中身もイケメンすぎる
(轟くんなら…みられても平気かな…)
そう思った私はプールからあがり
轟くんの隣に腰を下ろす
こんな間近で人にこの姿を見られるのは
初めてかもしれない。
『あ、あんまりじろじろ見ないでっ!!』
轟くんがあまりにもガン見してくるものだから
両手でほっぺを掴んで顔の向きを変えさせた
(もう…轟くんって、
無意識に人のこと見つめる癖あるよね…)
こんな美形男子に見つめられて
平常心を保てるわけがない。
「海波、…少し…触ってもいいか?」
『触っ、えっ?!?』
いきなり何を言い出すんだこの人は。
いや、人魚が珍しいのはわかる。
この足が気になるのもわかる。
(わかる…けど!!普通そうはならないでしょ!)
触るって、私の、この、魚みたいな足を??
人間の姿に置き換えたら
すごい絵面になるんだけど…
「…ダメか?嫌ならいいんだけど…」
(う、これは…断れないっ…
こんな綺麗な顔でそんな事言われて
断れるわけがないじゃん!)
別に嫌なわけじゃないし、
この足を綺麗と言ってくれた彼になら
触られても良いとは思うけど、
ただ…いくら見た目がヒレだとしても足は足だ
彼は珍しい魚のヒレを触る気分かもしれないけど私にとっては足なわけで…。