第26章 職場体験と波乱の幕開け
–あくあside–
結局その日はパトロールという名目で
もはや鬼ごっこみたいな状況だった
啓くんは流石、
早すぎる男と言われているだけあって
追いかけるだけで疲れる。
私は波を作ってその流れに
乗ってたからマシだったけど
常闇くんなんて
普通に走って追いかけてたし…
でも、移動スピードが早いおかげで
助けられた人もいたし、
流石プロヒーローだなって改めて想った
『…私も、あんな風になれるかな』
啓くんの事務所が借りている
建物の屋上で夜景を眺めながら呟いた
ぼーっと夜景を見てると
何だか不思議な気分になる。
『…はくしゅんっ!…う、意外と今日冷えるな…』
まだ全然暖かい季節なはずだけど
今日の夜は少し肌寒い気がした
『…!?』
すると、誰かが後ろから私に
上着を羽織らせてくれたみたいで
バッと振り返ると
「こんなところで何してるの?風邪ひくよ」
『啓くん!』
完全にオフの姿の啓くんが立っていた
いつも着ているヒーローコスチュームではなく
寝る時用のラフな服装だ
『…私ね、こうやって夜景をぼーっと眺めるのって好きなんだ』
啓くんが羽織らせてくれた上着の袖を
風で飛ばされないようキュッと掴んで
もう一度夜景に目を向ける
『じっと夜景を見てるとさ、何だか自分が自分じゃないみたいというか…現実じゃないような気がしてきて不思議な気持ちになるんだよね。って言っても啓くんはしょっちゅう空から見てるか!』
「夜景は毎日見てるけど…確かに、ずっと見てると不思議な感覚になるよね。」
チラッと横目で啓くんの方を見ると、
啓くんは今、ヒーローの顔をしていた
そういうのって癖なのかな
街を見下ろすと、
自然とヒーローの顔になってるのって。