第14章 10年越しの歌声
−あくあside−
集中、集中…
歌から意識を逸らしちゃダメ、
“消くんの怪我が、
みんなの怪我が直りますように”
そう思いを込めて、個性を発動させる
目を閉じていても、自分の周りに
黄色い光が漂っているのが分かる
光が漂っているということは、
今のところは順調ということだ。
そのまま私は一曲歌い終えると、
そっと目を開けた。
「…あくあ。歌えるように、なったんだな…」
『消、くん……よかった、無事で、よかった…』
目を開けるとそこには
私に話しかける消くんの姿があった
消くんの方が大変なはずなのに、
私の心配をしてくれて
床に寝た状態のまま手を伸ばし
私の頭を軽く撫でてくれる。
私の過去を知っている消くんだからこそ
私の葛藤も知っている。
『でも…ごめんね、まだ怪我を完全に治すほどの力は無いみたい…』
消くんの外傷は
ほとんど治すことはできたけど、
目に残る大きな怪我や、
体にかかっていた負担までは治せなかった
私の個性にも上限はある
古い傷は治せないし、
深い傷や後遺症が心配されるような
怪我を治すのはなかなか難しい。
ちゃんと個性を扱えるようになれば
きっといつか出来るようになるはずだけど
今の私にはこれが精一杯だ。
「いや…お前は十分凄いよ」