第3章 塞翁が馬 〜銀時篇〜
「え、ツッキーなの。別にあいつと誤解されるような事してなくね。ラッキースケベは確かに何回かあったような気がするけど、それだけじゃね。てっきり付き纏って来るさっちゃんの方だと思ってたんだけど。」
たしかに月詠は銀時に好意を抱いている。それに気づかない程、銀時もバカじゃない。しかし、だからこそ月詠とは必要以上に友情の線を超えないよう気をつけてきた。銀時自身にはもう心に決めた娘がいる。それを揺るぎない事実にする為、そして、不用意に月詠が傷つかない為にも振る舞いはフランクな友達付き合い止まりだったはずだ。それが何故、今になって彼女ポジションに月詠の名があがるのだろうか。ぶつぶつ呟きながら悩んでいると、答えは少女から発せられた。
「今朝見た夢では、えと、ツッキー、さんと長屋へ入ってくのを見ました。」
長屋をキーワードに、銀時は全ての記憶の箱を開けてゆく。なかなか思い出せず、最初は少女が記憶と妄想の混じったものを夢で見たのではと疑ったが、そのうち一つの記憶に辿り着いた。それは、最も思い出したくない過去である事に気づく。一つ、呆れの混じった溜め息を銀時は吐いた。
「あのなぁ、んな思い出して欲しくもねぇくだらない記憶、何で思い出すんだ。」
「くだらない記憶だなんてっ…!」
何故か記憶を否定されたくない少女は、目に涙を浮かべた。しかし銀時はそれに構わず、続ける。
「くだらねぇよ。酒やめさせる為に六股かけたなんてドッキリ仕掛けやがって。俺がどんな思いで長屋で過ごしたことか。」