第3章 塞翁が馬 〜銀時篇〜
どっきり……。信じられないというような顔をして、娘は銀時を見つめた。成る程、月詠の事はまだ思い出していない様子だし、やはりドッキリだとは知らなかったようだ。もし本当に月詠と長屋に入る所だけ夢で見たのなら、なんて都合の悪い場面をこの子は見たのだろうか。しかも、彼女自身、この作戦に参加していた事を覚えていない。どこまでも質の悪い。
「そうだ。まあ部分的にしか記憶がねぇんだろ。そこだけ思い出しちゃあ誤解するのも無理ないのかね。ったく、凹むんですけどー。」
「……ごめんなさい。変な誤解をしていたみたいで。」
申し訳なさそうに俯く彼女を見て、銀時は切なさを感じた。もしかしたら、今のこの子には銀時への恋心なのどないのかもしれない。一応、少しずつでも記憶が戻っているのなら、喜ぶべきなのだろう。この前会った時も、記憶のない彼女を惚れ直させるなどと豪語したが、いざ目の前に中途半端な記憶をもつ彼女を見ると、どうしてもこの想いを伝えたくなる。
ある種の覚悟を決めた銀時は、娘の腫れてない頬に手を添え、自分の方へ顔を上げさせた。
「なあ。お前の様子からして、お前が俺にとってどんな存在なのか覚えてないんだろ。」
「私が、銀時さんにとって…。」
そうオウム返しに繰り返す彼女の瞳に、銀時は期待の色が見えたような気がした。その瞳に銀時自身にも期待が生まれる。