第3章 塞翁が馬 〜銀時篇〜
そうだ、痛めつけ足りねぇ。コイツに手ぇ出したんだからな。いっそ二度と悪さ出来ないように股に付いてるタマでも潰すか。
決して穏やかではない思考の中、銀時はなんとか理性でこれ以上の暴走を押さえ込む。涙を情けなく流す不良の頭を乱暴に放した。
「倒れてる奴と消えろ。二度とこの辺りに来んじゃねぇ。」
尻尾を巻いた犬のように、不良は仲間を連れて公園から去って行った。
振り返れば放心している少女が居る。銀時の視線に気づき、口に詰められた布を取り、己の体を隠すように抱きすくめていた。それを見た銀時は、早く彼女を見つけ出せなかった事に悔やんだ。あの浅葱色を見た時、すぐにでも追えばこんな怖い思いをさせずにすんだろうに。胸の内に渦巻く後悔を感じながらも、上着を脱ぎ、隣に座るのと同時に娘の肩に羽織らせる。
「大丈夫だ。これ着てりゃあ誰にも見られねぇよ。」
「銀時さん…。」
突如聞こえた名前に、銀時は驚く。
「お前、思い出してたのか。」
その問いに是と頷く娘をみて、銀時は衝動でその子を抱き締めた。なんらかの切っ掛けで記憶が戻ったのなら、それで良い。これでようやく二人でまた幸せな時間を過ごせる。その事実に銀時はひたすら感激していた。
「そっか、そいつは良かった。早く助けに来れなくて悪かったな。けど、もう心配すんな。またお前を護ってやっから。」
そう言えば少女は安心したのか、彼女は銀時の腕の中で声を上げて泣いた。銀時はその様子を見て、愛おしそうに背中をさすりながら、先ほどよりもしっかりとした包容をした。