第3章 塞翁が馬 〜銀時篇〜
正直、今でも僅かながらも月詠の胸には銀時への恋心が根付いている。銀魂高校で再び出会い、あの娘が居ない事から、もしかしたら己にもチャンスがあるのではないかとも考えていた。毎日学校で顔を合わせても、ドッキリ作戦の時とは違い、あの娘が居ない事に落ち込んではいないように見えたから尚更だ。あの娘が現れないのなら、代わりに銀時をずっと支えて行けると。
醜く、酷い考えだと思う。かつて友情を共に育んだ数少ない女友達よりも、己の恋を優先させたいのだから。本当に未練がましい自分に嫌気がさす。未だ現れない友に会いたい気持ちもあるが、このまま現れなければ、とも心のどこかで思っている。時間さえかければ、銀時は振り向くかもしれないと。
しかし、学校を離れれば銀時は空いた時間をあの娘を探す為に全て費やしていた。月詠も猿飛あやめも、そして銀時を昔から好いていた他の者達も、それを知った時、悲しみながらも呆れた表情で銀時を応援し続けた。
そして時は満ちた。銀時はあの子をようやく見つけ出したのだ。二人の魂は時代を超えても求め合い、結ばれる運命なのだろう。ならばそれを温かく見守ろう。前世で幾つもの試練にぶつかった二人だ。きっと今生でも波瀾万丈な未来が待っている筈だ。かつて愛した男と、かつて認め合った親友の為に、この身をもって二人を支えよう。
そう決意した月詠の顔には清々しい笑顔が浮かんでいた。もうとっくに銀時の姿はないが、彼が走って行った方向をもう一度だけ見渡し、学校へ向かう。