第3章 塞翁が馬 〜銀時篇〜
月詠はドッキリ作戦に参加する一人として銀時と長屋へ向かっていた。始めはたとえ偽りの同棲生活でも、恋い焦がれるその男と一緒に暮らせる事実が嬉しかった。しかし、銀時と共に時間を過ごす間に、彼の中に己の居場所は無いのだと悟った。否、おそらく大切な仲間としては彼の中にいるのだろう。しかし月詠が最も望むその場所には、もう他の娘がすでに存在している。
会話をしようにも、噛み合わない短い返事しか返ってこず、視線も遠くを見つめ、心はそこになかった。結局、彼と過ごした事で残ったのは僅かな幸せと大量の虚しさだった。それは恐らく、当時あの男に惚れていた他の参加者にも言える事だろう。
なによりも銀時自身、心に決めた娘が居るにも関わらず、五人もの女達、そして長谷川泰三と過ちを犯した事にショックを受けていた。服部の意向で、銀時が好いた娘もドッキリに参加していたが、彼女は銀時に襲われず、「銀時のケダモノっぷりに引く」役割を与えられた。本人は良く分かっていないようだか、他の者達はいい薬だと満場一致で彼女の役割に同意した。だがそれは「薬」を通り越して銀時にとっては「毒」になった。最初は一人一人と向き合う努力はしていたが、時が経つにつれて見るに耐えない姿になっていた。そんな銀時を見て、ドッキリ作戦は最後まで行われずにタネが明かされたのだ。
過ちは無かったと知らされた銀時はすぐに調子を戻した。元々酒癖の悪い彼に与えた罰のつもりで始めた作戦だったが、反省の色が見えず、とりあえずその場の者達でタコ殴りにしたのだ。それでも元気よく娘のもとへ走って行った銀時を見て、女達は呆れながらも銀時の恋を応援することにしたのだ。