第3章 塞翁が馬 〜銀時篇〜
その後も学校への道を歩いていた二人だが、会話が無かった。否、月詠の方から何度か話題を振っているが、「ああ」や「おう」としか返事をしない銀時の所為で広がりようがなかったのだ。しかもその返事すら会話に噛み合っていない。いつもなら言葉が途切れる事はないのに、今の銀時は明らかに様子が可笑しかった。
「ぬし、何を考えておる。」
「ああ。」
「おい、天パが爆発しておるぞ。」
「おう。」
「今日は眼鏡を掛けてこなかったのだな。いつにもましてアホ面じゃぞ。」
「おう。」
「……まだ、あの娘を探しておるのか。」
「んあ、何だ急に。」
ある話題でやっとまともな返事が返ってきた事から、月詠は歩みを止める。急に立ち止まった月詠に不思議に思いながらも、銀時もその場に止まった。一瞬、月詠の表情は暗くなったが、すぐに強い眼差しを銀時に向ける。
「銀時、正直に言いなんし。ぬしは、あの子を見つけたのだな。」
銀時は僅かに驚きの表情を見せたが、すぐに嘲笑を浮かべる。
「そんなに分かりやすいのか。」
「ぬし程、考えている事がわからん男はおらん。しかし、あの娘の事になると呆れるほど態度に出る。」
そう言いきった後、二人の間には沈黙が落ちる。周りの騒音が、やけに耳についた。しばらくお互いを見つめる形になったが、その姿勢も月詠の方から一つのため息とともに崩れた。
「行け、銀時。会議はどうせ大した物ではありんせん。」
「おい、」
「言い訳なら、わっちがフォローする。どうせ今のぬしでは会議に参加しても、いつにもまして役になど立たん。」
「酷ぇ言い草だな。銀さんもやる時にゃやるんだけど。」
「しかし今は役に立たん。さっさとあの子を捕まえてこい。」
「……ありがとよ。」
「良いから、さっさと行け。」
後押しの言葉とともに、銀時はあの浅葱色を見かけた先ほどの場所へ走って行った。月詠はその後ろ姿を見送りながら、遠い過去の出来事を思い出す。その記憶はまだ彼女が彼に対して強い恋心を抱いていた時のものだ。