第3章 塞翁が馬 〜銀時篇〜
「ほれ、飴ちゃん。」
突然渡された飴にびっくりしているようだが、それをまじまじと見た後、彼女の表情に可愛らしい笑みが浮かんだ。抱き締めたい衝動を押さえるのに理性を総動員させたが、とりあえず、飴は気に入ってもらえたようなので良しとする。
「何々、好きなの飴ちゃん。そいつは良かった。俺の大事な大事な糖分わけてんだかんな。よく味わえよ。そんじゃあな。今度歩くときはちゃんと前見て歩けよ。」
今回はここまでの絡みが妥当だろう、と未だに帰り道の分からない住宅街を進もうとする。しかし、もう少し、と欲が己の心に湧き出る。昔よくしていたように、銀時は立ち去る間際に彼女の頭を撫でた。やはり懐かしく、心地よい感触だった。さあ、今日はここまでだ、と自分に言い聞かせ、その場を立ち去る。万が一にも不審に思われないように、決して後ろも振り向かない。
今生でやっとできた縁だ。たとえ過去の記憶がなくとも、絶対にまた探し出して惚れさせてやる。
銀時の決意は固かった。